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人的資本経営の開示義務とは?19項目の内容と有価証券報告書への対応

人的資本経営の開示義務とは?19項目の内容と有価証券報告書への対応

2026年5月21日

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人的資本経営は2023年以降、上場企業・大企業に対して情報開示が義務化されました。しかし「具体的に何を・どこに・どのように開示すればよいか」が整理できず、実務対応に悩む人事担当者は少なくありません。

本記事では、有報対応と経営の違いを整理し、最新の開示拡充トレンドから、義務を「採用力・企業価値向上」という最大の武器に変える実践的な進め方までをわかりやすく解説します。

人的資本経営の開示義務とは

人的資本経営の開示義務とは、一言でいえば上場企業を対象に、自社の人材戦略や社内環境のデータを有価証券報告書(有報)に記載して発表することを国が法律で義務付けた制度のことです。

「人的資本」という言葉単体はすべての企業に関わる経営手法ですが、「開示義務(ペナルティのある法的強制力)」という文脈においては、主に国内の主要な上場企業(約4,000社)が対象となります。

日本国内において、この義務化の法的なベースとなっている根拠は以下の通りです。

  • 金融庁による有価証券報告書の記載要領改正(2023年1月)
    内閣府令の改正により、2023年3月期以降の決算から、有価証券報告書への人的資本情報の記載が正式に義務化されました。これに対応しない(虚偽や不記載の)場合、有価証券報告書の虚偽記載として法令違反(罰則)の対象となります。
  • 2026年3月期からのさらなる「開示拡充」
    さらに直近では、単に数字を並べるだけでなく、新設された「給与決定方針」や「男女間賃金の増減率の理由」など、より踏み込んだ実務的な開示拡充が求められるようになっています。

【関連記事】人的資本経営とは?26年3月期適用「開示拡充」の概要から実務手順までわかりやすく解説

開示義務の対象企業と適用範囲

「人的資本の開示義務」には、大きく法定開示(義務)と任意開示(推奨)の2種類があります。

法定開示(有価証券報告書)の対象

有価証券報告書を提出する義務のある企業、すなわち上場企業および非上場の大会社(約4,000社)が対象です。2023年3月31日以降に終了する事業年度から適用されています。

有報での義務記載事項は次の通りです。

  • 人材育成方針:人材の多様性確保を含む育成に関する方針
  • 社内環境整備方針:多様性の確保に向けた方針
  • これらに関する指標・目標・実績:数値での進捗管理

さらに、女性活躍推進法・育児介護休業法改正により、規模に応じて以下3項目の数値開示も義務付けられています。

指標義務対象
女性管理職比率常用労働者301人以上の企業
男性育休取得率常用労働者1,000人以上の企業(2023年度〜)
男女間賃金格差常用労働者301人以上の企業

任意開示の対象

上記に該当しない中小企業・未上場企業は開示義務はありません。ただし、後述するように任意開示を積極活用することで採用競争力や資金調達面での優位性を得られるケースが増えています。

内閣官房「人的資本可視化指針」が示す19の開示項目

内閣官房が2022年8月に公表した「人的資本可視化指針」では、ISO 30414(人的資本報告の国際規格)などを参考に、7つのカテゴリー(エリア)と19の指標群が開示の参照基準として示されています。

これらはすべて義務ではありませんが、有価証券報告書・統合報告書・サステナビリティレポートなど、さまざまな媒体での開示目標として活用できます。

分野(大項目)項目(中・小項目)主な指標例(※修正後の分類に再配置)
人材育成リーダーシップリーダーシップ育成プログラムへのアクセス、リーダーへの信頼度
育成研修時間・費用、学習効果測定
スキル・経験スキルマネジメント体制、資格取得率など
エンゲージメントエンゲージメント従業員満足度・エンゲージメントスコア、アンケート回収率
流動性採用採用コスト、求人充足率、中途採用比率など
維持離職率、定着率など
サクセッション後継者育成(サクセッション)計画の策定・進捗率
ダイバーシティダイバーシティ女性管理職比率、外国籍比率、障がい者雇用率
非差別男女間賃金格差、差別に関する苦情件数など
育児休業育児休業取得率(男女別)、復職率など
健康・安全精神的健康メンタルヘルス施策(ストレスチェック受検率・高ストレス者割合など)
身体的健康平均残業時間、有休取得率、健康診断受診率
安全労災発生率、安全衛生研修の実施状況
労働慣行労働慣行労働基準法の遵守状況、就業規則の整備など
児童労働・強制労働サプライチェーンを含めた児童労働・強制労働の排除方針・監査実績
賃金の公平性賃金水準、同一労働同一賃金への対応度
福利厚生福利厚生費、法定外福利厚生の充実度
組合との関係労働組合との対話頻度、苦情処理体制の構築と機能状況
コンプライアンス・倫理コンプライアンス・倫理コンプライアンス研修受講率、内部通報件数と対応状況

ポイント:指針は「すべての項目を開示せよ」と求めているわけではありません。自社の戦略・業種・フェーズに合わせて優先度の高い項目を選択し、一貫したストーリーとして示すことが重要です(経済産業省・人的資本経営ポータル)。

① 人材育成

企業の持続的な成長を牽引する「リーダー層」や専門人材が、計画的に育っているかを開示します。

  • 具体的な開示内容
    • 従業員1人あたりの年間研修投資額および総研修時間
    • eラーニングや専門スキル講座の受講完了率
    • スキルマップの策定割合、リーダーシップ研修の対象者数・登用率
  • 実務の視点
    • 社内LMS(学習管理システム)を導入し、受講履歴やテスト結果を社員データと紐づけて自動集計する仕組みが必要。
    • 研修の「やりっぱなし」を防ぐため、受講後のレポート提出やスキル保有状況の更新をシステム上で一元管理する。

② 育成:従業員のスキルアップと学習環境

従業員が会社のビジョンに共感し、高いモチベーションを持って主体的に貢献しているかを開示します。

  • 具体的な開示内容
    • 定期サーベイによるエンゲージメントスコアの推移
    • サーベイドットコム等のアンケート回収率および回答のポジティブ率
    • 社内表彰制度への推薦件数や、社内イベントへの参加率
  • 実務の視点
    • 単発の年1回調査ではなく、パルスサーベイ(短期の簡易調査)をシステム化して定点観測する。
    • 社内SNSの投稿数、コメント数、「いいね」のリアクションログから、組織の活性度や孤立している社員をデータで検知する。

③ 流動性

優秀な人材を惹きつけ、組織内に維持し、重要なポジションの後継者を途切れなく配置できているかを開示します。

  • 具体的な開示内容
    • 採用チャネル別の獲得コスト、求人倍率、内定承諾率
    • 全体および部署別の離職率、早期離職(3年以内)の割合
    • サクセッションプラン(後継者計画)の対象ポスト数と準備完了率(候補者数)
  • 実務の視点
    • 社内公募やスカウト機能を持つ「社内マッチングシステム」を構築し、社内でのキャリアチェンジを可視化して離職を防止する。
    • 人材データベースに個人のキャリア意向とスキルを蓄積し、退職リスクの予測や後継者候補のリストアップを自動化する。

④ ダイバーシティ

多様な背景を持つ人材が差別なく公平な機会を与えられ、その能力を発揮できる環境があるかを開示します。

  • 具体的な開示内容
    • 管理職・役員における女性比率、外国人比率、中途採用者の比率
    • 男女間の賃金格差(同一労働同一賃金の検証データ)
    • 男性・女性それぞれの育児休業取得率および復職後の定着率
  • 実務の視点
    • 人事給与システムから性別・役職別の給与データを抽出し、格差の有無を自動計算できるマトリクスを作成する。
    • 育休対象者が発生した際、自動で申請フローや復職支援プログラムの案内が届くワークフローシステムを構築する。

⑤ 健康・安全

従業員が心身ともに健康で、労働災害のリスクがない安全な職場環境を維持できているかを開示します。

  • 具体的な開示内容
    • 月平均残業時間の推移、有給休暇取得率(日数)
    • ストレスチェックの受検率および高ストレス者の割合
    • 労働災害(労災)の発生件数、度数率・強度率
  • 実務の視点
    • 勤怠データとPCのログオン・ログアウト時間を連動させ、サービス残業や過重労働をシステム上で強制検知(アラート)する。
    • 産業医への面談予約やストレスチェックの実施を、社内ポータルから匿名かつシームレスに行える環境を整える。

⑥ 労働慣行

国際的な人権基準を守り、適正な労働条件と良好な労使関係のもとで健全に運営されているかを開示します。

  • 具体的な開示内容
    • 最低賃金遵守の状況、地域別・職種別の賃金水準の妥当性
    • サプライチェーンも含めた児童労働・強制労働の排除方針と監査実績
    • 福利厚生の利用実績(メニュー別の利用率)、労使協議会の開催実績
  • 実務の視点
    • ハラスメントや労務問題の温床を作らないよう、本部に直接届く「匿名相談・通報窓口フォーム」をシステム内に常設する。
    • 外部サプライヤーの評価・管理システムに「労働環境チェック項目」を組み込み、定期的なリスクスクリーニングを自動化する。

⑦ コンプライアンス・倫理

法令遵守の徹底と高い倫理観の醸成により、企業の社会的信用を失墜させるリスクを排除できているかを開示します。

  • 具体的な開示内容
    • コンプライアンス・情報セキュリティ研修の全社受講率(100%達成度)
    • 内部通報の年間受付件数、および是正措置の完了割合
    • 法令違反、情報漏洩などの重大インシデント発生件数(ゼロ実績の証明)
  • 実務の視点
    • 未受講者への自動催促(リマインド)機能がついたeラーニングシステムを運用し、受講率100%を確実に担保する。
    • 通報窓口のログ(受付〜調査〜対応完了まで)を監査に耐えうる形で暗号化・一元管理できるシステムを構築する。

有価証券報告書への具体的な記載ステップ

人的資本開示の実務は、以下の4ステップで整理できます。

  1. 現状把握(データ棚卸し)
    既存の人事データ・研修記録・エンゲージメントサーベイ結果を整理します。特に「女性管理職比率」「男女間賃金格差」など法定3項目は数値算出の根拠を明確にしておく必要があります。
  2. 戦略との紐付け(マテリアリティ特定)
    自社の中期経営計画・事業戦略と照らし合わせ、どの人的資本項目が「重要課題(マテリアル)」かを特定します。投資家が「この会社は何を大事にしているか」を読み取れるよう、選択と集中が求められます。
  3. KPI・目標の設定
    特定した指標に対して数値目標(例:女性管理職比率 2027年までに25%)と達成期限を設定します。根拠のない目標数値は投資家の信頼を損なうため、実績データとの一貫性が重要です。
  4. 有報への記載・継続的更新
    「サステナビリティに関する考え方及び取組」欄に、方針・指標・目標・実績をセットで記載します。初年度の開示内容は翌年度以降との比較で評価されるため、測定可能・継続可能な指標を選ぶことが長期的な信頼性につながります。

中小企業こそ任意開示が採用・資金調達の武器になる理由

開示義務は大企業に限られますが、2026年現在、中小企業・スタートアップが任意で人的資本情報を開示する動きが加速しています。その主な理由は以下の3点です。

採用競争力の強化

若手・Z世代の転職活動において、「会社が従業員をどう育てているか」「職場の心理的安全性はどの程度か」は重要な判断基準になっています。研修時間・エンゲージメントスコア・育休取得率などを採用ページやSNSで公開するだけで、情報開示に消極的な競合他社との差別化が図れます。

ESG対応・融資条件への影響

地方銀行や政府系金融機関(日本政策金融公庫など)が、融資審査においてESG・人的資本への取り組みを評価基準に加え始めています。開示義務がない段階から先行して取り組むことで、金融機関との関係構築においても優位性を発揮できます。

サプライチェーン対応

大企業が人的資本開示を進める中、サプライヤー・協力会社にも人材戦略の透明性を求める動きが出ています。中小企業でも取引先・親会社から開示を求められるケースが今後増加すると予測されます。

従業員のスキル可視化やリスキリング施策との連携については、リスキリング助成金の種類と申請方法も参考にしてください。人材育成投資を数値化し、人的資本開示の「育成」項目と紐付けると一貫したストーリーが構築できます。

従業員データの収集・可視化を一元管理したいなら

人的資本開示を「毎年手作業でスプレッドシートをまとめる」体制で進めると、担当者の工数負担が増大し、数値の一貫性も担保しにくくなります。

おすすめの人的資本管理は「社内資産シェアプラットフォーム」

構築実績800サイト以上のノウハウを凝縮したカスタメディアの社内資産シェアプラットフォームは、人的資本経営において以下の強力なメリットをもたらします。

  • 【人財の可視化】人材活用/知識スキルシェア(開示義務への即時対応)
    「誰にどんな知識やスキル、資格があるか俯瞰できない」という課題を解消。その範囲を退職者(アルムナイ)まで拡げることで、社内に眠る資源をフル活用し、まったなしの人的資本開示への対応と人不足解消を同時に進めます。
  • 【無駄の解消】不要品・空間のフル活用(コスト削減・環境負荷の低減)
    使われていない備品、資材、空間といった「眠れるリソース」を可視化し、有効活用する仕組みを構築。廃棄コストの削減だけでなく、全社的な環境負荷の低減にも大きく寄与します。
  • 【働きがいの向上】健康経営・ウェルビーイング(形式的な施策からの脱却)
    副業・ワーケーション対応など、多様な働き方を促進しコミュニケーションを増進。形骸化しがちな健康経営を、個々人の働きがいを向上させる本格的な施策へと進化させます。
  • 【組織の活性化】社内外コミュニティ増進(新しいオンライン交流)
    リモートワーク等で減少した接触機会を補い、社内コミュニティを再拡大。さらに退職人材(OBOG)、アルムナイ、従業員家族までを繋ぐ、新しいタイプの柔軟なオンラインコミュニティを構築します。

よくある質問

  1. Q. 有価証券報告書の開示と統合報告書・サステナビリティレポートの違いは何ですか?

    有価証券報告書への記載は法的義務で、金融庁の定める様式・項目に従う必要があります。統合報告書やサステナビリティレポートは任意の媒体であり、ISO 30414や内閣官房指針など国際・国内基準を自社で選択して開示できます。義務性と柔軟性の違いが最大の差です。

  2. Q. 19の開示項目をすべて開示しなければなりませんか?

    いいえ。「人的資本可視化指針」の19項目は参照基準(推奨)であり、すべての義務ではありません。有報での義務事項は「人材育成・環境整備方針」と「女性管理職比率・男性育休取得率・男女間賃金格差(条件付き)」の数項目に限られます。残りは自社の戦略との関連性に基づき優先順位をつけて選択することが推奨されています。


  3. Q. 人的資本開示の整備にかかるコスト・期間の目安はどのくらいですか?

    既存の人事システムや社内データの整備状況によって大きく異なります。スモールスタートであれば数十万円〜数百万円の範囲で着手できる場合もありますが、開示項目の選定・KPI設定・システム整備をあわせると6か月〜1年程度を要するケースが一般的です。費用は「目安」として複数の専門会社に相談・比較することを推奨します。

  4. Q. 人的資本開示に向けた対応はどこに相談すればよいですか?

    人材戦略の設計・開示項目の整理は人事コンサルタント、有価証券報告書の記載対応は監査法人・法務事務所、データ収集・可視化システムの構築はプラットフォームベンダーがそれぞれ専門領域を持っています。まずは自社の課題(戦略策定・制度対応・システム構築)のどこに優先課題があるかを整理した上で、適切な専門家に相談することが近道です。

  5. Q. 中小企業でも人的資本開示は必要ですか?

    法的義務はありません。ただし、採用競争力の強化・金融機関からの評価向上・大企業サプライヤーとしての取引要件対応などの観点から、任意での開示が有益なケースが増えています。全19項目でなくとも、自社が強みとする2〜3指標から開示を始めるアプローチが現実的です。

まとめ

人的資本経営の開示義務は「大企業の制度対応」として語られがちですが、その本質は「自社がどれだけ人を大切にしているか」を数字と言葉で示すことにあります。

いざ取り組もうとしたとき、多くの企業が「どのデータをどこから集めればよいかわからない」「項目が多すぎて優先順位がつけられない」という壁にぶつかります。そのような状況では、まずゴールを「全項目の整備」に置くのではなく、自社の人材戦略と直結する2〜3項目を選んで継続的に測定・開示する体制を整えることから始めると、現場の負担も抑えながら着実に前進できます。

まずは自社が今すぐ可視化できる小さな一歩から、始めていくことをおすすめします。

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